『こちら、終末停滞委員会。』(こちら しゅうまつていたいいいんかい)は、逢縁奇演による日本のライトノベル。イラストは荻poteが担当している。電撃文庫 (KADOKAWA) より2024年7月から刊行されている。略称は「こちまつ」。
いずれ宇宙を滅ぼすとされる事象・終末と戦いながら学園生活を送る少年少女の物語。
2025年1月には水瀬いのりがナレーションを務めるPVとCMが公開された。外伝小説『こちら、終末停滞委員会。です! ――例えばこんな、普通の日々の物語。』が『電撃ノベコミ 』(KADOKAWA) にて2025年3月から連載中。イラストはあさなやが担当している。
メディアミックスとして、桜井寛によるコミカライズ企画が進行中。
あらすじ
- 第1巻
- 人の心を読む能力・囁き屋をもつ言万心葉は、中学卒業前にメキシカンマフィアのサングレ・オクルタに拉致され、3年間奴隷のように利用されてきたが、用済みとみなされて遠い国へ売られることになった。しかし、同じく囚われていたところを偶然助けた少女・黒の魔王の力で輸送船は沈没し、心葉はサングレ・オクルタでの唯一の友人を助けようとして沈溺する。
- 心葉は女神の姿をした終末・霊魂アキュムレータ™に回収され、異世界転生と騙されて取り込まれかけるが、終末と戦う組織・終末停滞委員会に所属する蒼の学園の恋兎ひかりたちによって救出される。心葉は自らも人型の終末であることを教えられ、霊魂アキュムレータ™に協力させられていたメイド姿の終末・Lunaともども蒼の学園によって処分されかけるが、蒼の学園の生徒会長であるエリフ・アナトリアに囁き屋の価値を見出され、心の声による助言を受け、Lunaとともに蒼の学園への協力を申し出る。
- 心葉とLunaは恋兎が率いるチームのもとで、蒼の学園への入学前に終末解決の見学をすることになる。心葉は小柴ニャオに同行し、カウス・インスティトゥート所属のレア・クール・ドゥ・リュミエール、マギナ・アヴラムとともに、カルト宗教の永遠なる沈黙の熱狂者が発生させた終末・臓物マンションに臨み、その解決に貢献する。
- 心葉とLunaはテルミベック・ジェーンベコワのラボで保管されている終末を調査することになり、その中のひとつである泥の仮面に注目する。恋兎のチームとテルミベックは、泥の仮面が心の声で示した座標であるフィリピン海に何かあると考え、心葉とメフリーザ・ジェーンべコワの2人が深海探索に向かい、蒼の学園から逃亡するつもりだったLunaも心葉を案じて密かに同行する。深海に形成されていた異界で、泥の仮面の黒幕である機械の終末・守護者の群れと交戦し窮地に陥るが、心葉がLunaと契約して同化した終末・黄金の獅子の力で形成逆転する。守護者は全てを滅ぼすために死体仕掛けの神となって地上へ出現するが、恋兎によって倒される。
登場人物
蒼の学園
言万 心葉 ()- 顔をはじめ全身に傷がある少年。17歳。
- 人の心を読む終末
囁き屋 ()を持つ。終末ポテンシャルはStage4「活性化」。エリフからの助言で、周囲には未来予知の能力と偽っている。 - ライトノベルの主人公に憧れ、普通の高校生のような青春がしたいと望んでいる。育ての親である老住職からボクシングを習っていたほか、「いいヤツ」でいなければいけないという教えを胸に刻んでおり、優先して他者を助けることができる。
- Luna
- 水色のジャージにエプロンとカチューシャをつけたメイド。境界領域商会によって製作された、全身が金属糸で織られている機械人形。
鋼鉄の花嫁 ()と呼称される終末で、終末ポテンシャルはStage3「成長」。 - 心葉の境遇に心を痛め、報われることを願っている。
恋兎 ひかり ()- スーパー美少女を自称する、桜色の髪の少女。心葉たちの1つ上の先輩で、チームのリーダー。銃痕は桜の残影。
- 能天気な振る舞いを見せる一方で、人類最強と評される実力者。
小柴 ニャオ ()- 藤紫色の髪をツーサイドアップにした、小動物のような少女。中等部1年生。銃痕はシャムシール。
- 負けず嫌いであり、心葉との些細なやりとりを勝敗として数えている。
- メフリーザ・ジェーンべコワ
- 長身で褐色の少女。17歳で、心葉の同級生。銃痕は八脚馬。
- 反現実災害を発生させた神秘学者の父が逮捕された後、兄とともに保護されて蒼の学園にきた経緯を持つ。
- 真面目な性格。男性を苦手としているが、傷だらけの心葉を気にかけている。
- エリフ・アナトリア
- 蒼の学園の生徒会長。色鮮やかな帽子を被り、宝石を纏った小柄な少女。
- フォン・シモン
- イルミナティの管理人。気が弱そうな長身の青年。彼が5日休むだけで蒼の学園が崩壊すると評されるほど事務処理能力が高いが、一方で他人の心が理解できない。
- テルミベック・ジェーンベコワ
- メフリーザの兄。銃痕は涙する巨鳥。
- 偉そうな言動をするが面倒見は良い。妹に頭が上がらず、女性を苦手としている。
カウス・インスティトゥート
- レア・クール・ドゥ・リュミエール
- お嬢様然とした銀髪の少女。16歳。追放部隊所属。斬撃はジェヴォーダンの乙女。心葉と意気投合する。
- マギナ・アヴラム
- 半笑いを浮かべた小柄な黒髪の少女。追放部隊所属で、レアの先輩。斬撃は森の呪い。
その他の登場人物
- 黒の魔王
- 黒いコートを着た黒髪の少女。影の巨人を使役する。魔王を自称し、世界を滅ぼすことを目的としている。
作中設定
世界観
終末 ()- 宇宙の寿命が近いことによって生じた小さな綻びから始まり、存在を維持するために進化し続け、いずれ宇宙の法則を喰らうほどの脅威になるとされる事象。成長段階によって、始まり・種まき・成長・活性化・混乱・動揺・破壊・大火災・大洪水・終焉の10段階で終末ポテンシャルが設定される。確認される終末の件数は年々増加しており、第1巻時点の年に確認されたのが12897件で、解決済みが2180件だとされ、根絶が困難となっている。
- 天空都市・フルクトゥス
- 地球の上空にある亜空間の都市。面積は地球の5倍以上で、人間の居住可能域はその1%程度だとされる。いつから存在しているかも不明で、誰も詳細を知らない。
魂魄流動体 ()- 魂、あらゆる物質が有する指向性。
組織
終末停滞委員会 ()- 世界を守るために終末と戦う組織。主に蒼の学園、Corporations、カウス・インスティトゥートの三大学園からなる。
蒼の学園 ()- フルクトゥスの第12地区にある、三大学園のひとつ。最多の終末無力化件数という実績はあるが、倫理的な問題も挙がっており、他の学園から非難されることがある。下部組織のイルミナティは情報操作や反現実に関する研究を行っている。
- カウス・インスティトゥート
- フルクトゥスの第六地区にある、三大学園のひとつ。規律を重視する反面、融通が利かない面があるとされる。
- 境界領域商会
- 終末を流通させている反現実組織。
- 永遠なる沈黙の熱狂者
- 沈黙を信仰し、言語を敵視する反現実性のカルト宗教。
- サングレ・オクルタ
- 心葉の囁き屋を利用して規模を拡大させたメキシカンマフィア。
終末
- 囁き屋
- 鋼鉄の花嫁
- 黄金の獅子
- 鋼鉄の花嫁がユーザーを主人を認めることによって、鋼鉄の花嫁の本来の指向性を解放した終末。鉄糸で織られた黄金色の獅子の姿をしている。
銃痕の天使 ()- 蒼の学園が所有する、銃を手にした女性の左半身と腰までを象った石像。所有者の指向性を具現化した特殊な銃である
銃痕 ()を蒼の学園の生徒に与える。終末ポテンシャルはStage6「動揺」。 - 他にも、特殊能力を有する剣である斬撃をカウス・インスティトゥートの生徒に与える斬撃の天使が存在する。
- 霊魂アキュムレータ™
- 境界領域商会によって制作・販売されている終末。終末ポテンシャルはStage3「成長」。
- 「女神」が人間を言葉巧みに「門」へ誘導し、その中で人間の魂魄流動体を保全する。捕まった人間たちは溶かされて一つの肉塊にされ、魂魄流動体の鮮度を保つために異世界で冒険する夢を見せられ続ける。
- 臓物マンション
- バルセロナ郊外のマンションで発生した終末。永遠なる沈黙の熱狂者による儀礼であり、屋上に互いの頸椎を折った12対の遺体を配置してマンションを魔術の影響下に置き、住人の頭部を羊の子宮に変えて魂を加工し、育てた羊の胎児を黒曜石に捧げる。
二級天使・黒曜石 ()- 永遠なる沈黙の熱狂者によって信仰される天使。穢された魂魄流動体を消費して信者を不死の存在に成長させる。
- 熱狂者・ゴール
- 臓物マンションの儀礼によって不死になった永遠なる沈黙の熱狂者。口にした言葉を現実に反映させる能力を持つ。口を封じられても言葉を発することができる。対象を取らなければ能力は発動しない。
- 泥の仮面
- 東アジアからアメリカ大陸にかけての海岸で大量に発見された仮面。終末ポテンシャルはStage2「種まき」。
- その正体は、旧人類が現代の環境に適応できるよう守護者によって加工された存在。現人類の顔面に張り付いて肉体を簒奪する。しかし心葉からは、すでに長期間延命させられた旧人類は存在すること自体を苦痛と感じていて、現人類を乗っ取ったとしてもその瞬間に壊れる可能性を指摘されている。
- 守護者
- 旧人類によって造られた機械生命体。とある守護者が開発したとされる終末「灰色の霧」によって旧人類が滅ぼされた後、生き残った旧人類を深海に形成した異界で保護し、再び地上で繁栄させるために旧人類を泥の仮面に作り変える。旧人類を愛し尊ぶ反面、現人類を見下して憚らない。
死体仕掛けの神 ()- 守護者が自ら展開した異界や旧人類の遺骸、他の守護者を喰らうことで変化した姿。
銃痕
桜の残影 ()- 恋兎の銃痕。ジェットエンジン付きの空飛ぶギター。恋兎が調査を拒否しているため詳細は不明だが、フルクトゥスでも群を抜いた威力を誇る。
- シャムシール
- 小柴の「銃弾と
標的 ()を入れ替える」銃痕。標的を張った対象ごと位置を入れ替えることが可能であり、特定の人物に持たせて撃つことによって帰還させるほか、戦闘や追跡にも使用される。 八脚馬 ()- メフリーザの「探索する」銃痕。巨大なライフルから、さまざまな乗り物に変形できる。渋い男の声で話す、正義感の強い性格。
涙する巨鳥 ()- テルミベックの「帰ってくる」銃痕。テルミベックの心臓が止まった時に弾丸が一発だけ装填され、他の者が撃つことによって、発射された弾丸がテルミベックと同一の肉体・精神・記憶を有した人間に成長する。
斬撃
- ジェヴォーダンの乙女
- レアの「斬って着る」斬撃。巨大なチェーンソウ。斬った対象を着ることが可能なほか、対象の内側に亜空間を展開して操作することもできる。
- 森の呪い
- マギナの「釘を刺す」斬撃。マギナが口頭で禁止命令を出すことによって、対象の特定部位に巨大な木製の釘を出現させて行動を制限する。
作風
本作は、SF・伝奇・異能バトル・セカイ系など多様な要素を基盤とし、そこに多くの属性を盛り込んだヒロインが次々登場するのが特徴であり、ゼロ年代のライトノベルを想起させるような、今の主流と少し異なる作風となっている。
評価
岬鷺宮は第1巻の解説にて、現在の小説がコスト意識を求められていることについて言及しながら、本作が自分なら2、3冊かける量の情報をひとつひとつ作り込んだ上で提示していることについて、作家側のコストパフォーマンスを無視して読者側が贅沢に情報を摂取できるような構造になっている、「『商業作品』として『原価割れ』を恐れていない」と評し、その理由は逢縁奇演が純粋に好きでやっているからだろうと考え、作家として羨ましいと述べている。
『このライトノベルがすごい!2025』では文庫部門で4位、総合新作部門で2位になった。
ラノベニュースオンラインアワードでは、第3巻が2025年1月刊の投票アンケートで「熱かった部門」に選出された。
既刊一覧
- 逢縁奇演(著)・荻pote(イラスト) 『こちら、終末停滞委員会。』 KADOKAWA〈電撃文庫〉、既刊3巻(2025年1月10日現在)
- 2024年7月10日発売、ISBN 978-4-04-915800-7
- 2024年9月10日発売、ISBN 978-4-04-915906-6
- 2025年1月10日発売、ISBN 978-4-04-916094-9
出典
参考文献
- 逢縁奇演『こちら、終末停滞委員会。』KADOKAWA〈電撃文庫〉、2024年7月10日。ISBN 978-4-04-915800-7。
- 『このライトノベルがすごい!』編集部 編『このライトノベルがすごい!2025』宝島社、2024年12月10日。ISBN 978-4-299-06183-6。
外部リンク
- こちら、終末停滞委員会。 - 電撃ノベコミ




